今年(2019年)9月8日にNetflixに登場したthe Bletchley Circleのサンフランシスコ編。

元々はミニシリーズとして2012年にイギリスで放送されてたthe Bletchley Circleのスピンオフらしいのですが、元の話を知らなくても全然楽しめる、女性4人が主人公というなかなか新しい感じの推理ドラマで、ついつい一気見しちゃいました。

ということで、今回は「なるべくネタバレなし」でドラマの見どころなんかを伝えつつのレビューと考察をしたいと思います????

あらすじ:第一話

第二次大戦中、暗号解読班として従軍していたミリーとジーン(ミリーの上司)。
彼女たちの同僚の一人がアメリカ兵とのパーティーに出向いた際に遺体となって発見されるところから物語は始まります。彼女の手のひらには奇妙なマークが書かれ、死後に舌が切り取られた状態で発見。
結局犯人は捕まらず、戦争は終わり、暗号解読班として働いてた仲間たちも皆その経歴と能力を隠して平和な日常生活を取り戻した世界で生きていきます。

そんな淡々とした生活にミリーとジーンが終わりを告げたのが戦後から十数年後。
アメリカのサンフランシスコで彼女たちのかつての同僚と全く同じ状態で発見された遺体のニュースを見たときです。ミリーとジーンはある事情から、お互いに同僚が亡くなったのは自分たちの所為だとずっと心の奥底に罪悪感を抱え、救済を求めていました。

サンフランシスコに自分たちの同僚を手にかけた犯人がいる。
その人物を探し出し、法の裁きを受けさせるのが自分たちの使命だとミリーはジーンを説得し、二人は大西洋を渡り、北アメリカ大陸を横断してはるばるサンフランシスコまでやってきます。

犯人を探す上で重要なのは土地勘がある人物の助けです。
ジーンは暗号解読班として軍にいた際に、海を超えてやりとりをしていたアメリカ軍の暗号解読者が最後に残したメッセージを頼りにやってきたのですが、果たしてアメリカ人元暗号解読者は仲間になってくれるのか…
そしてジーンとミリーは犯人を捕まえることができるのか…

見どころ

第一話は結構重要なので、上の「あらすじ」ではドラマ全体ではなく第一話のあらすじを書いていますが、このドラマの導入話は当時のアメリカとイギリスの関係や社会問題がいーっぱい詰め込まれてて本当に面白い。

私はこのわずか半世紀ほど前に当たり前にあった社会問題をはっきり映像化しているところが、このドラマの見どころじゃないかなと思っています。

見どころ①:ウーマン・リブ運動前のアメリカ

レディーファーストで女性が活躍しているイメージの強い欧米諸国ですが、もちろんもともとそうだった訳ではありません。先達により数回のフェミニズム運動の「波」があったから今の社会がある訳です。

このドラマが描いているのはまさに第二波のフェミニズム運動と言われているウーマン・リブ運動が起こる少し前の、きっかけとなった出来事です。今まではプロパガンダで国に貢献しない人間は非国民だと煽り、工場など男手の足りない場所を女手で埋めてきたのに、いざ戦後男性が帰ってきたら用無しと言わんばかりにやはり同じく政府のプロパガンダで家庭に押し込められ(それが当時の当たり前の姿なので仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれませんが…)、承認欲求が満たされない女性たちの悩みと葛藤、また実際に当時女性がどういう立場にいたのかを描いています。

また、ウーマン・リブ運動が行われるきっかけとなったベティー・フリーダン著の「The Feminine Mystique」を映像化したとも言えるでしょう。

このドラマが面白いのは、はっきりと家庭に入りたくないと明言する独身のミリーと、家庭と家族が何より大事だと言っている既婚者のアイリスが同じメインキャラクターとして活躍するところでしょうか。

確かにアイリスも一度は認められた自分の能力をどこにも認めてもらえずに、承認欲求が満たされない不満を抱えていますが、彼女は家族が一番大切であると言い、妻であり母であること・家庭を守ることも大切であると考えています。

主人公たちが事件を解決することが「仕事」「家庭以外の生きがい・やりがい」を象徴しているのだとして、アイリスが仕事にのめり込みすぎることでちょくちょく家庭がおろそかになってしまうシーンがあるのですが、そこは「家庭と仕事の両立の難しさ」という現代人の生活を象徴しているような気がしました。

見どころ②:マイノリティーへの人種差別

ここでいうマイノリティーとは、人種でもあるし、また性的嗜好のことでもあります。

人種差別は今現在でも完全になくなるということはありませんが、それでもたった数十年前の方がより色付きの肌を持っていることで差別される時代だったということをこのドラマは思い出させてくれます。

また、その差別は黒人に対してだけではなく、日系アメリカ人が戦時中・そして戦後、敵国の人間としてアメリカで生活していくのにどれほど努力が必要だったのかも少しだけ描かれているので、日本人としては歴史として知っていた事実が、より生々しくリアルに感じることができました。

もちろん上記の差別を軽く見ているわけでは決してないのですが、一番興味深かったのはやはり性的マイノリティを題材にした回でしょうか。

性的マイノリティに関しての話は第一話ではなく5・6話になります。

以下若干ネタバレを含むので、ネタバレを見たくない方はスキップしてください。

ドラマでは暗号分析者の親戚として出てくるので、完全に「本人」の話というわけではないのですが、暗号分析者 x 性的マイノリティと言ったらもうあの解読不可能と言われていたドイツの暗号「エニグマ」を解読したアラン・チューリングじゃないでしょうか。

彼は国に、というか人類に多大なる貢献をしたにも関わらず、性的マイノリティだったために大変な苦難を強いられた上に悲劇の死を遂げます。

同性愛は当時のイギリスでは法律違反だったんですね。
ドラマの中でも「僕は存在自体が法に触れるんだ」と言って件のキャラが怯えているシーンがあります。

結局アラン・チューリングはある事件から同性愛者だと警察にバレてしまった後逮捕され、科学的去勢をされてしまい、その2年後に自殺してしまいます。

今でこそ性的マイノリティの結婚が認められた州もあり、ホモセクシャルの声も大きいために彼らに対しておおらかなイメージのある欧米諸国ですが、もともとクリスチャンの国だったわけですから、実は日本なんかよりとても風当たりが強かったんですね。

日本はもともと性に奔放で、男性用の男娼なんかも昔から普通にいたし、むしろキリスト教が入ってきた現代の方が性的マイノリティに対して偏見があるなんて言われていますが、その偏見を作る元となったキリスト教国家では偏見なんかではすまなかったわけですから怖いですね…

見どころ③:帰還兵の扱いとPTSD             

戦後生きて帰還した兵士たちがPTSDになり、攻撃的になったり、また精神を病んでしまったために家族から疎まれ阻害されてしまう。

これは日本でも全く同じ現象がありましたね。
以前はBSのNHKでもこの問題を取り扱ったものが放送されていたようです。

また、一昔前に話題になった「キャタピラー」は外見の変貌もプラスされて一番悲惨な形(元となったジョニーよりはまだましかもしれませんが…)で帰ってきた兵士の姿を描いていましたが、彼の元々の残虐な性格を考慮するとPTSDでフラッシュバックするシーンも仕方ないというか自業自得としか言いようがありませんでした。反戦はいいし、日本兵がしてしまったことを非難するのもいいですが、色々詰め込みすぎというかなんでそういう設定にした…?という謎部分が多くてイマイチでした。

が、

ブレッチリーサークルに登場する帰還兵は、「もともと頭がおかしい人間」と、「優しい人間」が戦争へ行った後に、「キレやすい暴力的な人間」へと変わってしまったパターンと2種類の人間が描かれています。特に後者は変わってしまった後も元々の彼の優しい気持ち=家族を思う気持ちがあり、より共感しやすくだからこそ考えさせられる内容になっているかと。

そのほかにもアメリカの帰還兵への扱いがずさんなために起こる問題がドラマ全体を通して描かれており、最後らへんはアメリカの当時のライバル国との対比なんかもあってなかなか興味深い内容です。

最後に

某見た目は子供・中身は大人探偵に出てくるような、捜査情報を横流ししてくれるキャラがいたりその他ちょいちょいツッコミどころはあるのですが、そういうのは推理系ドラマやアニメでは当たり前のご愛嬌ということにしておいて、推理ドラマとしても元軍の暗号処理班ということでヒントや暗号を解読していきながら事件を解決していく様はなかなか面白いです。

特に、はっきりとフェミニズム化される前の時代で、有能な女性がその能力を認められずにいる中、自分の能力で事件を解決したいと周りから何を言われようともあがいて行動して、最終的に事件を解決してしまうのが最高にかっこいい。

かっこいいけど、大戦後の社会問題を詰め込んだちょっとダークで考えさせられるドラマでした。

女性向けではあるけれども、男性もきっと楽しめるドラマなのでぜひ一度見て観てみてはいかがでしょうか????

“Gender Roles In A Post-War America.” ThirdSight History, April 13, 2013.
http://social.rollins.edu/wpsites/thirdsight/2013/04/13/gender-roles-in-a-post-war-america/.

Churchill, Lindsey Blake. “The Feminine Mystique.” Encyclopædia Britannica. Encyclopædia Britannica, inc. Accessed September 16, 2019. https://www.britannica.com/topic/The-Feminine-Mystique.

“アラン・チューリング.” Wikipedia. Wikimedia Foundation, August 26, 2019.
https://ja.wikipedia.org/wiki/アラン・チューリング.

Hatachi, Kota. “戦後70年以上PTSDで入院してきた日本兵たちを知っていますか 彼らが見た悲惨な戦場.” BuzzFeed. BuzzFeed, May 7, 2019. https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/ptsd-ww2.

関連記事: